井乃頭 純米吟醸 八重原ひとごこち|春日酒造が紡ぐ350年の奇跡
八重原に水を引いた男の、350年後の贈り物
伊那の地で古くから親しまれてきた銘柄「井乃頭(いのかしら)」。
井乃頭(いのかしら)」という銘柄名は、春日酒造の初代・漆戸周平氏が命名し、大正10年(1921年)に商標登録されました。この名前には、「最高の湧き水」や「良い水が湧くところ」という意味が込められています。特に、江戸時代に将軍家の茶の湯に使われた名水として知られる東京の「井の頭池」にちなみ、水へのこだわりを表現しています。
伊那市は中央アルプスと南アルプスに囲まれ、天竜川が流れる自然豊かな地域で、良質な水に恵まれています。この地で醸される「井乃頭」は、まさに水の恵みを活かした日本酒といえるでしょう。
そんな“水へのこだわり”を受け継ぐ春日酒造から、新たな一本が生まれました。
それが「井乃頭 純米吟醸 八重原ひとごこち 生 無濾過原酒」。
しかし、この酒の誕生の裏には、偶然とは思えない、ひとつの“ご縁”の物語が隠されています。
時を越えてつながる、命の水と命の酒
江戸時代初期――
長野県東御市・八重原の台地は水に乏しく、農耕には厳しい土地でした。
この地に命をもたらすため、蓼科山の麓から全長55kmにも及ぶ用水を引いた一人の人物がいます。
その名は黒沢嘉兵衛(かひょうえ)。小諸藩士として地域に尽くし、承応2年(1653年)から10年にわたって続いたこの壮大な灌漑事業は、やがて「八重原用水」として完成し、豊かな稲作地帯を生み出しました。
そして今、その黒沢家の血を受け継ぐ方の想いが、一杯の日本酒となって結実しました。
春日酒造の社長であり、丸善食品工業グループの専務でもある馬場博一氏。
ある日、馬場氏が東京のとある料理店を訪れたときのこと。日本酒の説明をしてくれた店主の口から思いがけない言葉を聞くことになります。「この日本酒、原料の酒米が八重原産なんです」
それは、350年の時を超えてつながった、奇跡のような瞬間でした。
春日酒造の社長である馬場博一氏のお母さまは八重原に水を引いた黒沢家の出身、つまり、馬場氏は嘉兵衛の子孫だったのです。
すぐにその料理店の店主から「太陽と大地」へ連絡が入り、後日私たちは馬場氏と直接お会いすることが出来ました。
驚きと敬意を胸に、馬場氏は私たちにこう語ってくださいました。
「母が元気なうちに、自分のルーツである八重原の米でつくられた酒を飲ませたいんです。」
その一言がすべての始まりでした。

八重原に水を引いた男の、350年後の贈り物
こうして、**八重原の棚田で育った「ひとごこち」**が、伊那の春日酒造で丁寧に醸され、
かつて水を引いた先祖の地と、その想いをつなぐ一杯が完成したのです。
華やかな香り、やさしい甘み、まろやかで澄んだ旨み。
その味わいには、どこか懐かしくも凛とした美しさが宿っています。
「ただの酒ではない」——
そう思わせる一本が、今ここに誕生しました。もし、黒沢嘉兵衛がいなければ。
もし、あのとき、八重原の地に水が引かれていなければ――
私たちはこの地で稲を育てることはできなかったかもしれません。
そして、今、ここにある「八重原米」も、この米で醸した日本酒も、存在しなかったでしょう。
命の水を引き、実りの大地を築いた黒沢嘉兵衛。
その功績の上に、私たちの今がある。
変わりゆく蔵、変わらない想い。『井の頭 純米吟醸 八重原ひとごこち』
標高700m、冷涼な高原地帯。
豊かな寒暖差と清らかな水に育まれた八重原の「ひとごこち」は、香り高く、しっかりと登熟し旨み豊かな酒米として知られるようになりました。
今回、その八重原米を使い、伊那の伝統蔵・春日酒造が醸し上げたのが、
**『井の頭 純米吟醸 八重原ひとごこち 生 無濾過原酒』**です。
フレッシュで華やかな香り、やさしく広がる甘みとバランス、ふくらみのあるまろやかな口当たり。そして、無濾過原酒ならではの厚みと、かすかに残る渋が食中酒にもぴったりです。飲みやすく、そして心に残る一本に仕上がりました。

【春日酒造 井之頭 純米吟醸 八重原ひとごこち生】 ¥2,450税込み
原材料名:米・米麹
精米歩合:55%
アルコール分:15度
原料米:東御市八重原産ひとごこち100%
内容量:720ml
味わい:コク・優しい甘みと奥行き
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自社栽培の「八重原米」を原料とする日本酒専門店「坐kura」
八重原の田んぼを見渡す場所に建つ、築80年の土蔵をリノベーションした小さな酒屋。
ここでは、自社栽培の八重原産酒米を原料とした日本酒を扱っています。
酒屋でありながら、まるで畑の中にあるワイナリーのように——
原料と風景と酒が、ひとつながりに感じられる空間です。

伊那の地で、古くから愛され続けてきた銘柄――『井乃頭』。
「春日酒造」が守り続けてきたこの名前には、地元に根ざした誇りと、時代を超えて語り継がれてきた酒造りの歴史が刻まれています。
かつて人々の喉を潤し、祝いの席を彩ってきたこの一本が、いま、新たな息吹を得て生まれ変わろうとしています。
標高700mを超える冷涼な高原で育った米がもたらす、清らかで華やかな味わい――
それは、これまでの『井の頭』とは一線を画しながらも、蔵が大切にしてきた“人に寄り添うやさしさ”をしっかりと受け継いでいます。過去と未来をつなぐ一杯
八重原の大地に水を引き、稲作を根付かせた人たちの努力。
そこに積み重なった350年の歴史。
そして、東京の小さな酒場で偶然生まれたご縁と、母を想う息子の優しい願い。
すべてが奇跡のように重なり、今、こうして一杯の酒として私たちの手元に届けられました。
『井の頭 純米吟醸 八重原ひとごこち』は、
単なる「新しい日本酒」ではありません。
大地の記憶、人の想い、時の流れ。
そのすべてを抱いて生まれた、奇跡の一杯です。
ぜひ、手に取って味わってください。
この酒に込められた、静かで力強い物語とともに。